メールマーケティング用のソフトウェアのマニュアルには、大抵、「複数のドメインからメールを配信することは推奨しません」という一文が記載されています。こちらの記事では、この一文が意味する内容をより詳しく解説します。
自社で利用しているドメインがブラックリストに追加されると、さまざまな問題が発生します。ブラックリストに追加されると、対象のドメインによるメールマーケティングの活動は一切停止し、同じドメインを利用している他の業務にも支障をきたします。こうした場合の解決策として、「ドメインがブラックリストに登録されたから新しいドメインを使う」という考えが浮かぶのは珍しくないかもしれません。しかし、多くの人が思い浮かべるこの対策は、誤りです。この対策がなぜ誤っているのかについて、以下に解説を記載します。
はじめに:メールのブラックリストとは
メールのブラックリストとは、迷惑メールを送信するのに使用されているドメインとIPアドレスをブロックするための受信拒否リストです。ブラックリストは、迷惑メール対策サービス、インターネットサービス、メールサービスなどの事業者によって作成され、維持管理されています。このブラックリストによって、メールの受信トレイには迷惑メールが届かないように設定されています。
ドメインがブラックリストに登録されるまで
上述した各サービスでは、不正利用されている(あるいは疑わしい)ドメインを検知し、ブラックリストに登録するために、特定の手法が利用されています。どのような手法があるのか、1つ1つ確認してみましょう。
メールサービス事業者
Gmail、Yahoo!、Zoho Mailは、送信元ドメインの信頼性のスコアに基づいてメールを判別しています。端的に言えば、信頼性のスコアが高ければメール配信は良好な状態で、低ければその反対の状態であると言えます。
信頼性のスコアは、信頼性を算定するシステムによって算出されます。受信者がメールに対して開封、クリック、複数回クリックなどの反応を行うと、ドメインの信頼性のスコアは高くなります。一方、受信者が、配信を停止したり、迷惑メール報告などを行ったりすると、ドメインの信頼性のスコアは低くなります。このようにして算定されたスコアが、一定のラインを下回ると、ドメインはブラックリストに登録されます。ドメインの信頼性について、さらに詳細を確認したい場合は、
こちらをクリックしてください。
補足:メールサービス事業者は、迷惑メールの配信元を把握するために、実際には利用されていない偽のメールアドレスによって、迷惑メールを検知するためのトラップ(罠)を設置しています。もし、配信メールがこの迷惑メールトラップにかかってしまった場合、ドメインの信頼性は大きく低下してしまいます(多くの場合、配信リストを外部から購入することによって発生します)。迷惑メールトラップの詳細と回避方法については、
こちらをご参照ください。
インターネットサービス事業者
インターネットサービス事業者は、迷惑メール(スパム)フィルターによって、メールに含まれるすべての情報を読み取ります(件名、冒頭部分、本文の内容、画像、URLなど)。迷惑メールフィルターでは、テキスト内に特定のキーワードやフレーズが含まれていないかどうかを調査します。また、報告済みの迷惑メールに含まれている画像のデータに照らして、画像も検査します。
URLが含まれている場合は、ブラックリストに登録されたドメインと、メールに含まれるURLとが関連していないかどうかを確認します。これらのデータは点数化されて、メールに信頼性スコアを付与したり、事業者が管理する信頼性スコアを算定したりするのに用いられます。
迷惑メール対策サービス
迷惑メール対策のサービス(例:Spamhaus、Barracuda、SpamCop)では、迷惑メールトラップを作成するために偽のメールアドレスを意図的に作成、収集しています。これは迷惑メール配信元が有効なメールアドレスを収集して、不正に利用したり販売したりしているためです。
迷惑メールトラップでは、このような不正なリストに含まれている偽のメールアドレスに対してメールが配信されると、対象の配信元を迷惑メール配信元として登録します。このようにして、迷惑メール対策サービスによって、悪質と思われる業者の情報が収集されます。
迷惑メールトラップの他にも、迷惑メール対策サービスでは、メールの送信元の信頼性を評価するために、迷惑メール報告履歴や、ドメインに対する苦情報告などのデータが利用されています(インターネットサービス事業者の項目に記載されている手法も、同様に利用されています)。
なぜ新しいドメインを作成するべきではないのか
ドミノ効果
ドメインがブラックリストに登録されてしまった場合を考えてみましょう。もしブラックリスト登録の原因が、不適切な配信リストやコンテンツにあったとしたら、どうでしょうか。最初の問題は、それまでのメールマーケティングのやり方に起因するものであると言えます。その場合、新しいドメインを作成したところで、根本的な問題は解決されないままです。
これでは、同じ失敗が繰り返されることになります。同様の原因によって新しいドメインも利用できなくなってしまえば、問題が解決されないまま、もう一度振り出しに戻ってしまいます。
本来必要のないはずの混乱
メールの受信者から見ると、新しいドメインによって配信されたメールは、知らないメールアドレスからのメールです。たとえば、「xyz@zylker.com」から2か月間購読していたメールが、突然「xyz@abc.com」から配信されるようになったとします。この場合、受信者からの配信停止や迷惑メール報告の件数が増加し、結果的にドメインの信頼性が低下する可能性があります。
ドメインの信頼性の向上(ウォームアップ)
新しいドメインを追加すれば、前のドメインで行っていたような配信を新しいドメインで再開できると思われることが多くありますが、実際はそうではありません。たとえば、ブラックリストに登録されたドメインから、以前は20,000通のキャンペーンメールを配信していたとしても、新しく作成したドメインでは、初めからそれほど多くの件数は配信できません。
新しい配信元ドメインを使用してメールを適切に配信するには、ドメインの信頼性を高めるための段階的な対応(
ウォームアップ)を行い、信頼性をゼロから構築しながら、配信するメールの件数をゆっくりと増やしていく必要があります。これは、メールサービス事業者が、迷惑メールからユーザーを守るために、信頼性がゼロのドメインから大量に配信されたメールを拒否することによるものです。
ブラックリストに登録されたドメインをもう一度利用する方法
ブラックリストからの登録解除
ドメインがブラックリストに登録されたら、まず、MXToolboxやMultiBRLなどの検索ツールを利用して、ドメインがブラックリストに登録された理由を調べます。次に、ドメインをブラックリストに登録したサービス事業者に連絡して、ブラックリストからドメインを削除してもらうよう申請します。
登録解除申請が処理される間、今回の事象をもとに、メール配信において今後改善が必要な点を洗い出します。(配信ドメインがブラックリストから削除される前に、メールをさらに配信すると、事態が悪化する可能性がありますので、ご注意ください)。
ヒント:配信したメールに受信者がどれほど反応したかは、ドメインの信頼性に影響を与えます。配信対象者からの反応率を高めるための工夫については、
こちらをご参照ください。
サブドメインの利用
メインのドメインを多目的で利用している場合、ドメインに問題があった場合の代償は大きくなります。たとえば、メールマーケティングを通じてメインのドメインに問題が生じた場合、対象のドメインを利用した、組織の活動すべてに影響が及ぶ可能性があります。また、メールマーケティング以外の活動によってドメインの信頼性が低下した場合、メールマーケティングの活動にも影響が及びます。このような問題を防止するには、サブドメインが役立ちます。
サブドメインは、メインのドメインまたは親ドメインとの関連性を保ちながら、異なるドメインとして機能するため、信頼性を保護するのに非常に有効です。このようにして、サブドメインを利用すると、メールマーケティングで利用しているドメインに問題が発生した場合の影響範囲を縮小し、メインのドメインの信頼性を守ることができます。
また、サブドメインは、その名前に示されるとおり、メインのドメインに関連付けられているため、サブドメインを通して自社を認知してもらう効果も期待できます。たとえば、「
xyz@email.zylker.com」というメールアドレスでは、メインのドメインである「zylker.com」に関連するサブドメイン「email.zylker.com」が使用されています。これにより、サブドメインを使用した場合でも、「zylker.com」のドメインに対する認知度の向上につながります。