共有IPアドレスと専用IPアドレス

共有IPアドレスと専用IPアドレス

IPアドレスとは 

IPとはインターネットプロトコルの略で、IPアドレスは、ネットワークに接続するすべてのデバイスに割り当てられている識別番号です。メールにおけるIPアドレスは、メールが配信される際の送信サーバーの情報です。
 
例:
  • IPv4:192.168.1.1
  • IPv6:2001:0db8:85a3::8a2e:0370:7334
 
メールを配信すると、メールサービス事業者によって送信サーバーからメールが転送されます。この送信サーバーは、IPアドレスで識別されます。このIPアドレスは、メールの受信サーバーで記録され、ドメインや認証情報と合わせてメールの信頼性の評価に使用されます。

この評価が、メールの到達率に直接影響します。評価に応じて、メールが受信トレイに到達したり、迷惑メールフォルダーに振り分けられたり、受信拒否されたりします。そのため、インターネットサービス事業者や、Gmail、Outlook、Yahooなどのメールサービス事業者は、各IPアドレスに紐づけられた信頼性スコアを管理しています。配信履歴が良好で一貫していれば、信頼性は高くなります。一方で、迷惑メールの報告、不達率、配信量の乱れが多い場合、信頼性は低くなります。
 
つまり、IPアドレスは、メールが信頼できるかどうかをインターネットサービス事業者が判断するための主要な指標です。 

共有IPアドレス、専用IPアドレスとは 

共有IPアドレス 

共有IPアドレスは、複数の配信元によって共有して使用されるIPアドレスです。共有IPアドレスを通じてメールを配信する場合、同じメールサービス事業者を利用している他の組織と同じIPアドレスからメールが配信されます。そのため、IPアドレスの信頼性は、そのIPアドレスを共有しているすべての配信元の実績を総合して決定されます。
 
共有IPアドレスは、一般的に多くのメールサービス事業者において標準で提供されています。独自のIPアドレスの信頼性を構築できるほどの配信量がない配信元に適しています。

専用IPアドレス 

専用IPアドレスは、1人の配信元にのみ割り当てられるIPアドレスです。このIPアドレスを通じて配信されるのは自分の組織のメールのみです。そのため、配信リストの質、反応率、不達率、迷惑メールの報告率など、自分の組織の配信状況に応じてIPアドレスの信頼性が決定されます。
 
専用IPアドレスを使用する場合、大量配信を開始する前に、配信量を段階的に増やす「ウォームアッププロセス」が必要です。新しいIPアドレスには信頼性の実績がないことから、インターネットサービス事業者によって慎重に扱われるためです。時間をかけて徐々に配信量を増やすことで、良好な実績を確立していく必要があります。


共有IPアドレスのメリットとデメリット

メリット 

  • ウォームアッププロセスが不要である:同じIPアドレスを使用する配信元のグループ(共有IPプール)は、信頼できるメールサービス事業者によって管理されています。この共有IPプールには、すでに配信履歴が確立されています。そのため、新規の配信元でもウォームアッププロセスを経ることなく、すぐに大量配信を開始できます。
  • 費用を抑えることができる:サーバーなどのインフラにかかる費用を、多くの配信元で分担できます。費用対効果に優れているため、特に中小企業に適しています。
  • 共有IPプールの信頼性を活用できる:共有IPプール内の他の配信元が堅実に運用していれば、自分の組織の配信量が少ない場合でも、共同で築き上げた良好な信頼性を保持できます。
  • 不規則な配信パターンに最適である:専用IPアドレスの場合、配信量が不安定で途切れた際に「使用されていないIPアドレス」とみなされ、信頼性が低くことがあります。共有IPアドレスを利用することで、このリスクを回避できます。

デメリット 

  • 信頼性を共有するリスクがある:共有IPプール内の他の配信元が、迷惑メールを配信したり、大量の苦情報告を引き起こしたりした場合、同じIPアドレスを使用しているすべての配信元が影響を受ける場合があります。このような外部要因によって、メール到達率が低下する恐れがあります。
  • 他の配信元の影響を回避できない:共有IPプール内の他の配信元の配信状況を監視したり、配信内容を管理したりすることはできません。信頼性の管理は、主にメールサービス事業者に委ねられます。
  • ブラックリストに登録される恐れがある:他の配信元の行為によってIPアドレスがブラックリストに登録された場合、該当のブラックリストを参照している受信サーバーにおいて、メールがブロックされたり、配信が遅延したりする恐れがあります。
  • 問題の原因を特定しにくい:受信トレイへの到達に問題が生じた場合、その原因が、自分の組織の配信状況によるものなのか、他の配信元の影響によるものなのかを特定するのが難しい場合があります。

専用IPアドレスのメリットとデメリット

メリット 

  • 信頼性を完全に管理できる:自分の組織の配信状況のみでIPアドレスの信頼性が決定されます。配信リストを適切に管理し、高い反応率と低い苦情報告率を維持することで、信頼性を向上できます。
  • 他の配信元の影響を受けない:他の組織の配信状況が、自分の組織のメール到達率に影響を与えることはありません。アカウント通知、パスワードのリセット、購入確認などの重要なメールにおいて、これは特に有効です。
  • 大量配信でも安定したパフォーマンスを発揮できる:1か月に10万通以上のメールを配信する配信元は、専用IPアドレスの安定性は特に有用です。
  • トラブルシューティングが容易である:到達率に問題が生じた場合、原因のほとんどが自分の組織のキャンペーンメールにある可能性が高いです。そのため、迅速かつ的確に原因を特定し、対応することが可能です。

デメリット 

  • ウォームアップ期間が必要である:新しい専用IPアドレスには信頼性がありません。最初から大量のメールを配信すると、インターネットサービス事業者によるスロットリング(受信制限)やフィルタリングの対象になります。通常4~8週間かけて、徐々に配信量を増やしていく必要があります。
  • 費用が高い:専用IPアドレスには、メールサービス事業者からの追加月額料金が発生します。また、継続的な管理コストも必要です。配信量が少ない配信元にとって、この追加費用が適切だと言えるケースはほとんどありません。
  • 安定した配信量が必要である:インターネットサービス事業者は、既知のIPアドレスからの配信量が大きく変動することを想定していません。専用IPアドレスが長期間使用されなかったり、配信量が不規則に変動したりすると、確立した信頼性を失う恐れがあります。その場合、もう一度ウォームアップを行って、信頼性を回復する必要があります。
  • 責任はすべて自分の組織にある:配信リストの管理が不十分であったり、迷惑メール率が高かったり、反応率の低い登録者にメールを一括配信したりすると、IPアドレスの信頼性が低下します。共有IPプールのような緩衝作用がないため、直接影響を受けます。

適切なIPアドレスの選び方 

最適なIPアドレスの種類は、主に配信量と運用スキルによって決まります。

共有IPアドレスが適しているケース: 

  • 1か月のメール配信量が10万通未満である。
  • 配信量が不規則である。
  • メールマーケティングを開始したばかりで、配信リストの管理方法が確立していない。
  • 信頼性の高いメールサービス事業者を利用しており、この事業者が共有IPプールを適切に管理している。

専用IPアドレスが適しているケース: 

  • 1か月に10万通以上のメールを安定して配信する。
  • メールマーケティングの経験が豊富で、配信リスト、反応率、認証(SPF、DKIM、DMARC)がすでに適切に管理されている。
  • トランザクションメール(通知用のメール)とマーケティングメールを厳密に分ける必要がある。
  • 信頼性を完全に把握して管理したい。
専用IPアドレスと共有IPアドレスの両方を合わせて使用することも可能です。優先度の高いトランザクションメールには専用IPアドレスを使用し、大量のキャンペーンメールには共有IPアドレスを使用する例もあります。このようなハイブリッド方式を採用すると、重要なメールの配信を保護しながら、マーケティングメールの配信コストを抑えることができます。

おわりに 

メールの到達率において、共有IPアドレスと専用IPアドレスは、いずれも正当で効果的な役割を果たします。その違いは、品質ではなく用途に適しているかどうかにあります。共有IPアドレスは、事業を拡大中の組織、不定期な配信を行う組織、予算が限られている組織に対して非常に効果的です。ただし、メールサービス事業者によって共有IPアドレスが厳格に管理されていることが前提です。一方、専用IPアドレスは、十分な配信量があり、適切な管理体制と信頼性を構築して維持できる配信元に最適です。
 
IPアドレスの種類に関わらず、到達率を向上するための基本原則は変わりません。配信リストの整理、認証済みドメイン、受信者の要件に沿ったメール内容、受信者による安定した反応などが、メールの到達率を高めます。IPアドレスの種類そのものよりも、これらの基本を実践することが、長期的な受信トレイへの到達につながります。

比較表

要素

共有IPアドレス

専用IPアドレス

信頼性の管理

同じプールの配信元で共有される

自分の組織に限定される

ウォームアップの必要性

不要

必要(4~8週間)

費用

ほとんどのメールサービス事業者のプランに含まれる

追加月額料金が発生する

最適な配信量

月間10万通未満

月間10万通以上

ブラックリストへの登録リスク

同じプールの他の配信元の影響を受ける

自分の組織の活動のみに基づく

配信量の安定性

不規則でも問題ない

安定している必要がある

トラブルシューティング

複雑(他の配信元と共有しているため)

シンプル

最適な利用例

成長段階の組織/配信量が少ない組織

運用方法を確立済みの組織/配信量が多い組織