ブループリントとジャーニー設計の比較 - 類似点と相違点

ブループリントとジャーニー設計の比較 - 類似点と相違点

ブループリントとジャーニー設計の比較

Zoho CRMのブループリントとジャーニー設計の機能には、互いに異なる点と似ている点があります。

異なる点は、機能の目的です。ブループリントの目的は、組織内の「業務プロセス管理」です。対して、ジャーニー設計の目的は、「顧客体験管理」です。 
一方、似ている点は、プロセスの作成/編集に使用する要素です。ブループリントとジャーニーは、どちらも「状態」、「遷移」、「処理」という同じ名前の要素を使用して組み立てます。このように要素の名前が同じであるのは、どちらの機能も「有限オートマトン」というモデルをもとにして設計された自動化機能であるためです。以下では、2つの機能について、類似点と相違点の概要と、よくある質問をご紹介します。

有限オートマトン

Zoho CRMのブループリントとジャーニー設計は、どちらも有限オートマトン(別名:有限状態機械)というモデルをもとに設計されています。有限オートマトンは、有限個の「状態」と「遷移」と「動作」(処理)の組み合わせからなる数学的に抽象化された「ふるまいのモデル」であり、ソフトウェアだけでなく、ゲームやAIなどの開発においても幅広く利用されています。
有限オートマトンは、「状態」の数が有限であり、どのような時点においても1つの「状態」のみをとることができる抽象計算機です。ある「状態」で入力が行われると、一定の規則に従って、「状態」が別の「状態」へと変化します。この変化を「遷移」と呼びます。有限オートマトンは、「状態」、初期状態、各「遷移」の実行タイミングとなる入力の一覧によって定義されます。また、各「状態」がどのような規則によって「遷移」するかは、図表で表すことができます。

有限オートマトンの利用例としては、駅の改札、エレベーター、ダイヤル錠、自動販売機などがあります。ここでは、駅の改札を例に説明します。駅の改札には、閉じているか、開いているかの2つの「状態」のみがあります。改札が閉じている状態から開いている状態に「遷移」(変化)するには、ICカードのタッチまたは切符の投入が必要です。ここで、ICカードのタッチや切符の投入が行われなければ、改札が開くことはありません。また、改札が開いている状態で、ICカードのタッチや切符の投入を行っても、改札は閉じた状態へは遷移(変化)しません。つまり、改札が閉じている状態でICカードのタッチまたは切符の投入が行われた場合にのみ、改札が開くという単純なシステムです。


このような有限オートマトンのモデルは、業務プロセスを管理するためのさまざまなソフトウェアに利用されています。有限オートマトンに基づく業務プロセス管理システムは、「状態」や「遷移」を組み合わせて作られていることが多いため、互いに類似する傾向があります。

ブループリントとジャーニー設計の機能の両方に、「状態」、「遷移」、「処理」という同じ名前の要素があるのは、上記の理由からです。ただし、両者の機能の目的や活用範囲は異なります。両者の機能の違いの基本的な要因は、以下のとおりです。 

機能の目的

ブループリントは、組織内の業務プロセスの自動化、効率化、徹底を目的とする「業務プロセス管理」機能です。一方、ジャーニー設計は、カスタマージャーニーとして、一連の顧客との接点とやりとりの見える化、自動化、最適化を目的とする「顧客体験管理」機能です。

「状態」

ブループリントの「状態」は、Zoho CRMの特定のタブにおけるデータの進捗状況を表します。そのため、ブループリントの「状態」としては、見込み客のステータスや、商談のステージなど、対象のタブの選択リスト項目の値のみを使用できます。

一方、ジャーニー設計の「状態」は、カスタマージャーニー(顧客体験)における見込み客/顧客の段階を示すものです。ジャーニー設計の「状態」には、独自の段階名として自由なテキストを設定できます。また、各「状態」は、Zoho CRMのさまざまなタブに個別に関連付けることができます。たとえば、Webサイトの訪問者がフォームから問い合わせを送信すると、Zoho CRMに見込み客データが作成されるとします。この場合、見込み客データが作成された後の「状態」は、「見込み客として登録済み」とし、[見込み客]タブに関連付けることができます。見込み客は、認知、情報収集、検討の段階を経て、購入に至ります。この過程において、適切な段階で、Zoho CRMの見込み客データを連絡先データに変換する必要があります。また、購入の検討が開始した段階で、商談データを作成する必要も生じます。ジャーニー設計では、プロセスの経過に応じて、「状態」を自由に設定し、Zoho CRMのさまざまなタブ(例:見込み客、連絡先、商談など)に関連付けることが可能です。このように、ジャーニー設計における「状態」は、自由に名前を設定でき、さまざまなタブに関連付けることが可能です。 

「遷移」と「実行タイミング」

ブループリントの「遷移」は、社内の担当者がデータに対して必要な作業手順を完了した場合に、手動で実行できます。具体的には、ブループリントの「遷移」の担当者が、データの詳細ページで、ブループリントの案内に従って、データの入力/更新、ファイルの添付、チェックリストの消し込みなどの必要な作業を行います。必要な作業とデータの検証がすべて完了すると、データを現在の「状態」から次の「状態」へと手動で遷移できます(なお、自動遷移を適用し、一定時間待機した後に、自動で遷移を実行することも可能です)。これは、ブループリントの目的が、データ収集と手順の標準化であるためです。 

一方、ジャーニー設計の「遷移」は、見込み客/顧客とのやりとりや、見込み客/顧客の行動、反応、変化などを条件として、自動で実行されます。たとえば、Webサイトの訪問者がサイト内からチャットを送信した場合に、訪問者自身に対する送信確認メールと、担当者に対する通知メールを自動送信するとします。この場合、訪問者に対する確認メールの開封を実行タイミングとして、「遷移」を自動で実行し、営業担当者に対してさらにリマインダー通知を自動送信するように設定することが可能です。このように、ジャーニー設計の「遷移」は、見込み客/顧客とのやりとりや、見込み客/顧客の行動、反応、変化などをきっかけとして自動で実行されます。これは、ジャーニー設計の目的が、カスタマージャーニー全体における見込み客/顧客の反応や状態に応じた対応の最適化であるためです。 

なお、ブループリントの「遷移」では、データの項目値やメモの入力、ファイルの添付、タグの追加、チェックリストの消し込み、メッセージの確認、関連データの作成、ウィジェットによる入力などを必須にできます。一方、ジャーニー設計の「遷移」の「実行タイミング」としては、APIやシグナルの受信、データの作成/編集/承認/却下、送信メール/通話/アンケートの状態や反応などを指定できます。 
 
相違点
ブループリント
ジャーニー設計
目的
組織内の業務プロセスの自動化、効率化、徹底
カスタマージャーニー(顧客体験)の見える化、自動化、最適化
視点
組織内のユーザー
見込み客、顧客
状態
Zoho CRMの特定のタブにおけるデータの進捗状況(対象のタブの選択リスト項目の値のみを選択可能)
カスタマージャーニー(顧客体験)における見込み客/顧客の段階(状態ごとに、状態名とタブの関連付けを設定可能)
遷移
社内の担当者が、データに対して必要な作業手順を完了した場合に、手動で実行できる
見込み客/顧客との接点におけるやりとりや、見込み客/顧客の行動、反応、変化などを条件として、自動で実行される
「状態」と「遷移」の例
状態1:問い合わせの受信
状態2:要件の確認済み

「状態1」から「状態2」への遷移:
要件の確認
  1. 連絡先情報の入力
  2. 必須項目「商品/サービス」、「予算」、「購入予定時期」の入力
  3. 要件の詳細に関するメモの入力
問い合わせを受信したら、社内の担当者はブループリントの案内に従って上記の作業を行います。すべての作業が完了したら、遷移を実行し、次の状態「要件の確認済み」に進みます。
状態1:見込み客データの登録
状態2:お礼メール開封済み

「状態1」から「状態2」への遷移の実行タイミング:送信メールの開封

「見込み客データの登録」と同時に自動送信されたお礼メールが見込み客によって開封されたら、次の状態「お礼メール開封済み」への遷移が、自動で実行されます。  
 

よくある質問 

「ジャーニー設計=複数のタブに適用可能なブループリント」という理解は正しいですか? 

いいえ、正しくありません。ブループリントとジャーニー設計は本質的な目的が異なります。確かに、現在、ブループリントは特定の1つのタブのデータにのみ適用でき、ジャーニー設計は複数のタブのデータに適用できます。しかし、これは機能的な違いです。このような機能的な違いだけで、「ジャーニー設計=複数のタブに適用可能なブループリント」と考えることはできません。両者は目的が異なります。 
  1. ブループリントの目的は、組織内の業務プロセスの自動化、効率化、徹底です。
    今後、ブループリントによって複数のタブに関する業務プロセス管理が可能になったとしても、ブループリントの目的はあくまでも組織内の業務プロセスの自動化、効率化、徹底であるため、その機能はジャーニー設計とは異なります。

  2. ジャーニー設計の目的は、カスタマージャーニー(顧客体験)の見える化、自動化、最適化です。
    ジャーニー設計内のすべての状態が、特定の1つのタブのみに関連付けられていたとしても、ジャーニー設計の機能は、カスタマージャーニー(顧客体験)全体における顧客対応業務の自動化であり、ブループリント(組織内の業務プロセスの自動化機能)とは異なります。 

ジャーニー設計とケイデンスの違いは?

「顧客体験管理」機能であるケイデンスとジャーニー設計は、どちらも広い意味でカスタマージャーニー(顧客体験)の見える化、自動化、最適化を目的としています。しかし、具体的な用途は異なります。ジャーニー設計は、カスタマージャーニー全体における顧客対応業務の見える化、自動化、最適化に利用できます。一方、ケイデンスは、見込み客や顧客のフォローアップ業務の自動化に特化した機能です。ニーズに応じて適切な機能を選択して、利用することが可能です。 
  1. ケイデンスを利用すると、顧客の反応や状態に応じて、メール送信、タスク作成、通話予約のフォローアップ処理を自動で実行できます。 
  2. たとえば、特定の条件を満たした見込み客/顧客に対してお礼メールを自動送信できます。さらに、お礼メールの状態や反応(例:開封やクリック)に応じて、後続フォローアップ処理(例:アンケートメールの送信)を自動で実行できます。 
  3. 見込み客や顧客に関するフォローアップ処理(メール送信、タスク作成、通話予約)の自動化のみであれば、ケイデンスが最適です。ジャーニー設計においてもフォローアップの自動化は可能ですが、設定の負担が大きくなる可能性があります。 
  4. ケイデンスとジャーニー設計は、組み合わせて利用することも可能です。 
  5. ケイデンスで見込み客や顧客のフォローアップを行い、一定の段階に達した見込み客/顧客をジャーニー設計で管理するという、効果的な顧客体験管理が可能です。 


キオスクとウィザードの違いは?キオスクやウィザードは、「業務プロセス管理」機能の1つですか? 

いいえ。キオスクとウィザードは、どちらも「業務プロセス管理」機能ではありません。Zoho CRMの画面のカスタマイズ機能です。キオスク機能では、特定の処理を行うための専用画面(キオスク)を作成し、Zoho CRM内のさまざまな場所に埋め込むことができます。キオスクを通じて、データの作成や検索だけでなく、通知の送信やカスタム関数などのさまざまな処理を実行できます。一方、ウィザード機能では、データ入力用の独自のフォーム画面(ウィザード)を作成できます。

ウィザードを利用すると、画面ごとに入力項目が整理されて、段階的に表示されるため、スムーズなデータ入力が可能です。また、入力の途中で入力内容を下書きとして保存し、後から入力を再開することも可能です。たとえば、見込み客との通話中に、Zoho CRMに見込み客データの詳細を登録しようとしているとします。通話中にすべての詳細を登録することが困難でも、ウィザードなら入力内容を下書きとして保存し、通話終了後に続きから入力を再開できます。このように、ウィザードは、Zoho CRMでのデータ入力の円滑化を目的とした機能です。また、データ入力時のメール通知やWeb通知を自動で実行できます。
 関連情報:ウィザード


キオスクでは、ウィザードよりも多様で高度な処理を実行できます(例:データの作成/取得/表示/更新/関連付けや、通知の送信、担当者の割り当て、活動の追加、Web通知、カスタム関数など)。また、キオスクは、ホーム画面、データの一覧ページや詳細ページ、設定画面など、Zoho CRMのさまざまな場所に設置できます。たとえば、ホーム画面に設置されたキオスクの表示欄から、複数のタブのデータを更新できます。また、架電用のトークスクリプトの表示や、特定の見込み客/連絡先に対するメール送信などにも利用可能です。このように、キオスクは、さまざまな処理をすばやく実行するための画面として、Zoho CRMのさまざまな場所に埋め込むことができます。

旅行会社におけるキオスクの活用例を見てみましょう。見込み客/顧客から旅行日程の変更依頼を受けた場合に、営業担当者がその都度、各タブのデータの詳細ページに移動して日程を更新し、関係者に更新を通知するのは手間です。キオスク機能を利用すると、旅行情報を更新するための専用画面(キオスク)を作成し、Zoho CRMのホーム画面に設置できます。これにより、営業担当者はホーム画面からキオスク「旅行情報の更新」にアクセスし、更新対象の旅行データをすばやく検索し、旅行日程を更新できます。また、データの更新完了と同時に、関係者に対してデータの更新通知を自動で送信することが可能です。 


上記の旅行会社の例で利用されているキオスクのフロー:

ブループリント、ジャーニー設計、ケイデンス、ワークフローなどの機能は、組み合わせて利用できますか?

はい、プロセス管理機能(例:ブループリント、承認プロセス、レビュープロセス、ジャーニー設計、経路探索、ケイデンスなど)や自動化機能(例:ワークフロールール、割り当てルールなど)は、組み合わせて利用することが可能です。たとえば、ジャーニー設計で見込み客から連絡先に変換されたデータに対して、連絡先データの管理に関するブループリントを適用することが可能です。このように、各機能を組み合わせることにより、多角的な自動化や効率化が可能です。 

ただし、複数の機能による処理の重複にはご注意ください。たとえば、ジャーニー設計、ケイデンス、ワークフローなどの複数の機能を通じて、同じ受信者に対して同様のメールが重複して送信されないように注意する必要があります。複数の機能を併用する場合は、該当の機能において同じ接点で同じ内容の処理が設定されていないかどうかをあらかじめよくご確認ください。 

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