Zoho CRMのプロセス管理機能は、活用範囲に基づいて「業務プロセス管理」と「顧客体験管理」の2つに分けることができます。
「業務プロセス管理」は、組織内の業務プロセスを管理し、改善することを目的としています。業務プロセスの効率化や、特定の作業手順の徹底に役立ちます。一方、「顧客体験管理」は、顧客体験を見える化し、向上することを目的としています。商品やサービスの認知から、購入後の利用継続に至るまで、一連の顧客との接点とやりとりを管理し、顧客に対して必要なタイミングで必要な情報やサービスを提供するのに役立ちます。「業務プロセス管理」では、1. ブループリント、2. 承認プロセス、3. レビュープロセスの機能を利用できます。一方、「顧客体験管理」では1. コマンドセンター(ジャーニー設計と経路探索)と2. ケイデンスの機能を利用可能です。
この記事では、Zoho CRMの「業務プロセス管理」と「顧客体験管理」のそれぞれに含まれる各機能の目的と利用例について説明します。
Zoho CRMの「業務プロセス管理」機能
ブループリント
目的:業務プロセスの開始から終了まで、一定の流れや手順に従った業務の遂行を徹底したい場合に利用します。プロセスにおける必要な手順を明確化できるため、業務の標準化と作業手順の遵守の徹底に役立ちます。また、入力データの検証、繰り返しの作業の自動化により、ミスや抜け漏れを防止して、業務の効率化に役立ちます。組織内の業務プロセスの効率化には、ブループリントが適しています。
利用例:
ある旅行会社では、Zoho CRMの[旅行]タブで顧客からの旅行申し込みデータを管理しています。また、作成されたすべての旅行データに対してブループリント「旅行申し込み管理」が自動で適用されるように設定しています。これにより、旅行申し込みデータが作成された場合に、ブループリントの遷移に従って、データに関する必要なすべての作業を抜け漏れなく行うことが可能です。具体的な遷移としては、要件(人数や目的)の確認、旅行プランの作成、上司による承認、チケット/宿泊先の手配、旅行書類のレビュー、問い合わせの完了などを設定しています。また、各遷移においては、項目の入力値の自動検証や、必要な作業(チェック項目の完了、ファイルのアップロード、メモの入力など)の完了確認が可能です。たとえば、上限を上回る旅行人数が入力された場合や、日程ファイルのアップロードが完了していない場合には、次の状態に遷移できないようにすることが可能です。このように、ブループリントを利用することにより、組織内の業務プロセスを標準化して自動化し、作業の抜け漏れやミスを効率的に防止できます。
上記の旅行会社の例についての詳細は、以下の動画(英語)をご参照ください。
上記の旅行会社の例で利用されているブループリント:
承認プロセス、レビュープロセス
目的:Zoho CRM内のデータの作成/変更内容を承認者/レビュアーが確認し、承認/却下できるようにしたい場合には、承認プロセスまたはレビュープロセスを利用します。承認プロセスやレビュープロセスでは、データが特定の条件を満たす場合に、承認者/レビュアーに対して承認依頼が自動的に通知されます。そして、承認者/レビュアーによる承認/却下が完了するまでは、データの変更や利用が制限されます。たとえば、ある組織の営業プロセスでは、商品/サービスの割引率が12%未満の場合は営業担当者の判断で割引を適用できるが、12%以上の場合は上司による承認を必要とすることが定められているとします。この場合、承認プロセスやレビュープロセスを利用すると、作成された商談データの割引率が12%以上である場合に、承認者/レビュアーに指定されている上司に対して承認依頼を自動送信できます。なお、承認プロセスとレビュープロセスの主な違いは、以下のとおりです。
- レビュープロセス:データの特定の項目の値について、個別に承認/却下したい場合に利用します。また、レビュープロセスでは、レビュアーが複数設定されている場合、任意のレビュアーが項目値を承認/却下できます(いずれか1人のレビュアーが承認/却下すると、該当のレビュアーによる決裁内容が適用され、プロセスが完了します)。
- 承認プロセス:データ全体を承認/却下したい場合に利用します。また、承認プロセスでは、複数の承認者を設定した場合に、任意の承認者による承認のみを必須にするか、すべての承認者による承認を必須にするかを選択できます(さらに、後者の場合、特定の順番での順次の承認を必須とするか、並行での承認を許可するかを選択可能です)。
レビュープロセスも承認プロセスも、指定した条件に該当するデータの承認依頼は自動で通知されます。その後、レビュアー/承認者が手動で承認/却下の操作を行います。
承認プロセスの利用例:旅行プランのデータで割引率が12%以上に設定されると、承認者に対して承認依頼の通知が自動送信されます。承認者による順次または並行でのデータの承認/却下が完了するまでは、データの編集/削除や利用は制限されます。承認者は、[承認待ち]タブから対象のデータを表示し、承認/却下できます。
レビュープロセスの利用例:Zoho CRMに新たに追加された問い合わせデータの[見込み客のデータ元]項目の値が[社員からの紹介]である場合、営業部長に対してレビュー依頼が自動で送信されます。これにより、営業部長は、社員名やその他の一部の項目の値をレビューした上で、紹介割引や、関連商品/関連サービスの提案を検討できます。
関連情報:レビュープロセス
Zoho CRMの「顧客体験管理」機能
ジャーニー設計
ジャーニー設計では、見込み客との最初の接点やりとりから顧客化、リピーター化、ファン化までの一連の流れにおける顧客体験の価値を向上しつつ、顧客対応を効率化できます。
たとえば、ある旅行会社では、以下のようなジャーニーを作成しました。Webフォームを通じて問い合わせデータを送信した該当の見込み客に対して、一覧のフォローアップメールを自動送信します。最初に送信されるお礼メールが見込み客によって開封された場合、同じ見込み客に対して旅行の要件に関するアンケートメールが自動送信されます。続けて、見込み客によってアンケートが回答された場合、対象の見込み客のデータは連絡先データへと自動変換されます。同時に、[旅行]タブに、関連する旅行申し込みデータが自動作成されます。以降、営業担当者が直接フォローアップします。
さらに、他部署への問い合わせのエスカレーション処理、意見や要望に対するメール対応、優良顧客に対する特典の提供などを自動化することも可能です。このように、一連の自動処理によって、長期にわたるすべての接点とやりとりにおいて顧客体験の価値を高めることができます。
上記の旅行会社の例で利用されているジャーニー:
上記の例では、ジャーニーに基づいて作成された旅行申し込みデータに対してブループリントを適用し、その後の組織内の業務プロセスをブループリントによって管理することも可能です。
ジャーニー設計とブループリントを組み合わせて利用する場合、両者の使い分けの基準は以下のとおりです。
- ジャーニー設計:商品やサービスの認知から購入後の利用継続に至るまで、一連の顧客との接点とやりとりを管理し、顧客に対して適切なタイミングで適切な情報やサービスを提供することを目的として設定します。上記の旅行会社の例では、問い合わせの受信後のお礼メール送信、アンケートメール送信、見込み客から連絡先への変換、旅行申し込みデータの作成まではジャーニー設計で自動処理しています。
- ブループリント:組織内の業務プロセスを管理し、必要な作業や手順を徹底し、効率化することを目的として設定します。上記の旅行会社の例では、ジャーニー設計によって作成された旅行申し込みデータに対してブループリントを適用することで、データに対して組織内で必要な一連の作業を抜け漏れなく、効率的に行うことが可能です(例:要件の確認、旅行プランの作成、上司による承認、チケット/宿泊先の手配、旅行書類のレビュー、問い合わせの完了)。
このように、ジャーニー設計とブループリントを組み合わせて利用することにより、ジャーニーに基づいて見込み客や顧客に対して適時に必要な対応を行うために、組織内で必要な作業や手順を確実に効率良く進めることができます。
経路探索
経路探索では、データに基づいて、見込み客や顧客が、商品やサービスの認知から、購入後の利用継続に至るまでに実際にたどった経路を分析できます。効果的な接点を確認できるだけでなく、商品やサービスの購入をやめた段階や、購入の阻害要因を特定して、必要な対策を行うことが可能です。たとえば、多くの購入者がたどった経路は、「Webサイトの訪問」→「問い合わせの送信」→「営業担当者からの発信通話」である一方、Webサイト内を長時間滞在した後に離脱した見込み客が多いことが分かったとします。この場合、Webサイトでの離脱を防止するため、チャットを設置するなど、必要な対策を行うことが可能です。
旅行会社を例に考えてみましょう。たとえば、旅行の申し込みを、旅行会社の予約サイトからだけでなく、外部の予約サイトからも受け付けている場合、自社サイトと、外部サイトのどちらの訪問がきっかけとなりでどのように行き来しているのかを把握することが可能です。また、外部サイトでの離脱率が高い場合は、チャットやヘルプウィジェットを設置して、訪問者がスムーズに予約に進めるようフォローするなど、必要な対策を行うことができます。
このように、経路探索では、実際のデータに基づいて、見込み客や顧客との一連の接点やりとりを分析し、購入までの経路を最適化できます。
また、経路探索の分析結果に基づいて、ジャーニー設計を変更することも可能です。たとえば、Webサイトでチャットのメッセージに返信していないことが原因で多くの訪問者が離脱している場合は、ジャーニーに顧客へのチャット対応を追加できます。このように、経路探索では、実際のデータに基づいて分析し、必要な対策を行うことが可能です。
ケイデンス
ケイデンスは、見込み客や顧客のフォローアップ業務の効率化に役立つ機能です。ケイデンスとジャーニー設計は、どちらも顧客体験の価値の向上のために利用できますが、目的や設定可能な処理が異なります。ケイデンスでは、特定の条件の見込み客や顧客に対する一連のフォローアップ対応を個別に自動化できます(メール送信、通話予約、タスク作成など)。一方、ジャーニー設計では、一連の顧客との接点とやりとりを管理し、対応プロセスを最適化できます(メール通知やタスク作成、データの作成や更新、Webhookや関数の実行などを設定可能です)。
以下の例では、ケイデンスを使用して、対象となる顧客に対して、メール送信、通話予約、タスク作成のフォローアップ処理を自動で実行することが可能です。また、前回のフォローアップにおける顧客の反応や状態に基づき、後続のフォローアップ処理を自動で実行するように設定できます。フォローアップ対象の見込み客/顧客は、手動または自動で設定可能です。また、メールの返信を受信するなど、特定の条件を満たした見込み客/顧客データを、フォローアップ対象から自動で除外できます。このように、ケイデンスを利用すると、顧客のニーズに基づくフォローアップを簡単に効率化できます。
Zoho CRMのプロセス管理の機能とその目的
目的
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機能
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カテゴリー
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組織内の業務プロセスの効率化、特定の作業手順の徹底
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ブループリント
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業務プロセス管理
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データの作成/変更内容の承認や項目値のレビューに関するプロセスの自動化
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承認プロセス/レビュープロセス
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顧客体験の価値を向上するための接点と顧客対応プロセスの見える化
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ジャーニー設計
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顧客体験管理
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ジャーニーで見込み客や顧客が実際にたどった経路の分析
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経路探索
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見込み客や顧客に対するフォローアップの自動化
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ケイデンス
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