根本原因分析(Root Cause Analysis:RCA)は、損失や問題が発生したときに、その背後にある根本的な原因を突き止めるための手法です。この手法では、問題の詳細を明らかにした後、その発生に至るまでの経緯をさかのぼって分析します。このような分析を実施することによって、問題への適切な事後対策が可能になります。
根本原因分析を行う理由
離れていく顧客をゼロにする努力をどれほどしても、不満を抱いて離れていってしまう顧客は出てきます。不満の原因は、値段が高い、サービスが悪い、他社の商品の方が良い、手続きが煩雑、出荷が遅い、などさまざまです。ただ、どのような理由にしても、顧客が離れていくことは問題であり、何らかの対処をしなければなりません。
顧客が離れていく理由を調査したい場合は、解約時にアンケートを実施する、面談や電話によって顧客の意見を聞く、などの方法をとることができます。このように顧客一人ひとりに理由を聞き、個別に対処することはもちろん大切ですが、それだけでは、顧客離れの全体像を把握することはできません。顧客離れや、それに伴う損失に適切に対処するためには、離れていく顧客に共通するマイナスの要因を特定し、ビジネスにどのような影響があったのか、また現在も影響があるのかを理解する必要があります。Zoho CRMの顧客の声分析における根本原因分析は、そうした理解のために、全体の状況を総合的に分析する機能です。
顧客の声分析における根本原因分析
企業の業績が低迷する原因はさまざまですが、多くの場合、原因となるような事象があったときには、顧客から否定的な反応が示されています。このため、Zoho CRMの顧客の声分析では、現在のデータの中に記録されている否定的な反応をすべて見つけ出すことから分析が開始されます。以下に、「顧客の声分析」機能の中でどのように分析が実行されるのかを説明します。
ステップ1:印象分析の機能によって、顧客からの反応やフィードバックが肯定的か、否定的か、中立的かを判断し、否定的な反応だけを抽出します。
ステップ2:否定的な反応が示された後に状況が悪化したケースを分析し、原因となった事象をさかのぼっていきます。
ステップ3:前のステップの結果に基づき、否定的な反応を引き起こした事象、つまり根本原因を特定します。特定される根本原因は、革新性の欠如、商品の不具合、対応の遅れ、低品質なサービス、納期の超過、フォローアップの不足、要件とのミスマッチなどです。
顧客の声分析機能では、上記のような流れで分析が自動で実行されます。その後、得られた分析結果をもとに、ユーザーが自分でさらに詳しい調査を行います。たとえば、根本原因の分析結果をグラフ化し、ビジネスにどのような影響があるのかを明らかにすることで、問題の解決策を検討できます。
活用例
多くの分析手法の中で、根本原因分析が特に役立つ例をいくつか説明します。
売上減少の分析:ここでは、不動産の売買を支援する不動産仲介業者のケースを紹介します。仲介業者の主な収入源は、不動産の売買が無事に完了した後に支払われる手数料です。このため、物件リストに記載されている不動産ひとつひとつにしっかりと対応していく必要があります。取引が不成立になると、手数料を受け取ることはできなくなるので、売上の減少につながり、企業の評判も悪化します。この仲介業者では、失敗を避けるため、また、同じ失敗を繰り返さないため、根本原因の分析に真剣に取り組んでいます。
以下に、顧客の声を活用する方法を示します。
- 顧客に着目したグラフを作成します。顧客の声分析の分析対象に[連絡先]タブを指定します。
- 顧客の行動を分析に使用するため、関連タブには、顧客の声分析の反応、商談、予定を指定します。
- 軸には、商談の合計金額を指定します。これで、根本原因ごとに商談の金額を集計できます。
- 不成立となった取引の金額を集計し、上位5つの根本原因を表示します。
この分析結果から、否定的な反応の原因や、ビジネスへの影響の大きさを知り、それに応じて適切な対策を取ることが可能になります。
配達遅延の分析:次に、配達の速さを特長とする販売業者の例を見てみましょう。この業者は、顧客からさまざまな商品の注文を受け付け、それを調達して顧客に届けています。この業者にとって重要な要素は配達の速さと便利さであるため、ここに問題が生じると顧客が離れる原因になりかねません。そこで、この業者は、購入をしなくなった顧客を原因ごとに分類し、顧客離れの傾向を把握したいと考えています。
このような分析は、次のような方法で実施できます。
- 購入をしなくなった顧客を調査するため、[連絡先]タブで分析を行います。
- 顧客からの反応を分析に活用するため、関連タブに[顧客の声分析の反応]を指定します。
- 軸には、連絡先数を指定します。購入をしなくなった顧客の傾向を把握するため、連絡先数をコホート図で表示します。
以上により、分析対象のデータの種類(タブ)と分析軸を設定できました。 - グループ化の基準として根本原因を指定することにより、根本原因別に連絡先数の分布を表示できます。
根本原因分析を活用した調査を行う方法:独自のダッシュボードを作成する
上の図に表示されている根本原因は、顧客の反応から特定された原因です。これらの原因は、[顧客の声分析の反応]を関連タブに指定すると、グループ化に使用できるようになります。
根本原因の分析結果は、グラフ、表、コホート、異常値、KPIなどを使用して表示できます。分析の目的や対象データの解釈方法などに応じて、さまざまな表示方法を選択できます。
- データを統計情報として分析したい場合は、グラフまたはKPIが適しています。
- 根本原因の傾向を把握したい場合は、コホート図が適しています。
- 詳細な数値を表示して根本原因を特定したい場合は、表が適しています。
顧客の声分析で独自のダッシュボードを作成する手順については、
こちらのヘルプ記事をご参照ください。
根本原因の分析結果を行動につなげる
根本原因分析は、失注や解約の事後にその事象を振り返る分析ですが、分析結果をもとに行動を起こすことで、失った顧客を取り戻せる可能性もあります。たとえば、サービスに不満を感じた顧客に対しては、その不満を解消する提案をすることで信頼を回復できます。
詳細フィルターでは、根本原因分析に関する情報を使用して条件を指定できます。これにより、顧客のさまざまなデータの中から不満の要因を見つけ出すことができます。
配達の遅延が原因で離れてしまった顧客には、次回の注文時に送料を無料にするといった提案が効果的でしょう。価格のミスマッチ、技術的な制限、商品の不具合、システムの問題などが原因の場合も、顧客の意見は今後の改善に役立てることができます。根本原因分析を的確に実施することで、個々のデータを一見しただけでは分からない、失敗の根本原因を明らかにすることができます。失敗から学び、適切な対策を取ることで、顧客を取り戻し、業務の効率化を進めることが可能になります。