ビジネスにおいて、解約(チャーン)を把握することはとても重要です。解約とは、顧客が商品/サービスの利用を止めたり、購入しなくなったりすることを表します。解約の増加は、売上に多大な影響を与えます。
解約について定期的に確認していない場合、解約の発生やその傾向に気が付くのは困難です。よくある状況は以下の2つです。
-
顧客が商品の購入やサービスの利用を止めた後になってはじめて気が付き、慌てて新たに顧客を獲得しようとする
-
顧客が商品の購入やサービスの利用を止めてしまってもまったく気が付かない
上記のどちらの場合であっても、良い影響はありません。
まず、1つ目の状況について考えて見ましょう。商品の購入やサービスの利用を止めた顧客がいることが判明したとします。そして、売上を埋め合わせるために、新規顧客を獲得するための営業活動を開始しようとします。しかし、新規顧客向けの営業活動は、既存顧客向けの活動に比べて多くの時間と労力を必要とします。
米国に本社を置く
ベイン・アンド・カンパニー
社が行った
優良顧客との関係
に関する調査によると、新規顧客を獲得するための費用は、既存顧客を維持するための費用の
5倍
かかると言われています。
そのため、顧客が商品の購入やサービスの利用を止めた後に対策を行っても、時すでに遅し、です。
次に、2つ目の状況についてみてみましょう。商品の購入やサービスの利用を止めた顧客を把握できていない場合、ビジネスへの影響はより大きくなる可能性があります。
ハフポスト紙
に投稿された
こちらの記事
では、thinkJar社CEOの
エステバン・コルスキー
氏による顧客体験に関する調査結果が紹介されています。この調査では、商品の購入やサービスの利用を止める理由を伝えるのは一部の人のみで
全体の4%
にも満たず、大多数の人は何も伝えないことが明らかにされています。
どちらの場合においても、失われた顧客分の売上を埋め合わせるための労力は計り知れません。場合によっては、解約が増加していることにすら気づけないこともあります。
このような場合に、
Ziaによる解約予測機能
が役立ちます。
Zia(ジア)とは、Zohoが提供するAIアシスタント機能です。Ziaの予測機能では、Zoho CRMに保存されているデータをもとに顧客の振る舞いや行動、パターンや傾向を分析して、
解約の確率
がリアルタイムで算出されます。これにより、解約の可能性が高い顧客を把握し、顧客が実際に商品の購入やサービスの利用を止める前に対応することが可能です。
Ziaによる解約予測機能
Ziaによる解約予測機能では、顧客が商品の購入やサービスの利用を止める可能性の度合い(解約の確率)を確認できます。また、解約を誘発する要因と、防止する要因を分析したグラフを表示することも可能です。
以下の画像は、予測データの表示例です。顧客データの詳細ページに、解約の確率がスコア(数値)として表示されます。スコアが高いほど、顧客が商品の購入やサービスの利用を止める可能性が高いことを表します。
また、詳細のリンクをクリックすると、ポップアップ画面が開き、対象の顧客の解約に関する誘発要因と防止要因の内訳を確認できます。
グラフでは、各要因が全体に対して占める割合(%)を確認できます。たとえば、解約の誘発要因としてサービス品質の低さ、競合他社による有利な条件の提示、決済の問題などがある場合、それぞれの要因が予測されたスコア全体に対して占める割合を把握することが可能です。これにより、顧客ごとに解約につながりやすい要因を理解し、対策を行うことができます。
同様に、解約の防止要因の欄では、顧客を引き止め、解約を防止したり遅らせたりしている要因の内訳を確認できます。同様に、各要因が全体に対して占める割合(%)も確認することが可能です。
なお、誘発要因や防止要因の分析には、顧客に関するすべてのデータが使用されます(これには、関連タブや顧客の声分析のデータも含まれます)。
利用条件
Ziaによる解約予測機能は、以下の条件を満たす組織でのみ利用できます。
-
エンタープライズ
プランまたは
アルティメット
プランを利用中であり、かつ20人分以上のユーザーライセンスを所有している。
-
組織アカウントのデータが
米国、ヨーロッパ、インド、中国、オーストラリア
のいずれかの
データセンター
で管理されている。
必要な権限
Ziaの予測機能で設定可能な権限には、
設定の管理
と
予測データの表示
の2種類があります。これらの権限を他のユーザーに対して設定できるのは、
Zoho CRMの管理者
のみです。
-
設定の管理
:この権限を持つユーザーは、予測データを作成/編集/表示したり、予測機能を有効/無効にしたりできます。
-
予測データの表示
:この権限を持つユーザーは、予測データの表示のみ可能です。
メモ
:組織でZiaの予測機能が有効に設定されると、予測データの表示権限がすべてのユーザーに対して有効になります。設定の管理権限については、手動で設定する必要があります。
利用例
Ziaによる解約予測機能では、商品/サービスの料金体系が定期課金(サブスクリプション)型に該当する場合でもそうでない場合でも、設定内容に基づいて解約の確率が算出されます。
上記の画像のとおり、定期課金(サブスクリプション)型の場合、予測データの表示画面には解約のスコアと対象の商品/サービスが表示されます。定期課金(サブスクリプション)型ではない場合、商品/サービスが固定ではないため(取引ごとに変わる可能性があるため)、予測データの表示画面には解約のスコアのみが表示されます。
以下では、利用例をもとに説明します。
サービス業での解約予測
(料金体系が定期課金/サブスクリプション型の例)
インターネットや電話などの通信サービスを提供する企業の例で見ていきます。この企業では、サービスのプランを複数用意しています。決済処理は定期的に行われます。この企業で顧客分析を行ったところ、長い間サービスを利用している優良顧客がいる一方で、サービスを解約する顧客が毎月少なからずいることが判明しました。そのため、解約が多いサービスを特定し、対策を実施することにしました。このような場合に、Ziaによる解約予測機能が役立ちます。予測機能を利用することで、Zoho CRMに保存されているデータをもとに、解約される可能性が高いサービスを特定できます。
また、以下の画像のように、解約の確率が一定の割合に達する場合において、顧客に対してフォローアップ処理が自動で行われるようにワークフロールールを設定することも可能です。
小売業での解約予測
(料金体系が定期課金/サブスクリプション型ではない例)
ネットショップ(オンライン通販)の事業を運営している企業の例で見ていきます。この企業では、販促活動の一環として、商品を購入しなくなった顧客を特定し、対策を実施することにしました。しかし、このような事業では、決済は取引の都度行われ、定期課金(サブスクリプション)型のように定期的には行われません。また、すべての取引は新しい商談として個別に管理されるため、解約を特定するのは簡単ではありません。
Ziaによる解約予測機能は、このような場合でも役立ちます。この例のように定期課金(サブスクリプション)型ではないケースでは、顧客が商品を購入しなくなったと判断する条件を指定します。指定された条件と取引データをZiaが照らし合わせることで、解約の確率が算出されます。
以下の画像のように、解約の確率は顧客の詳細ページにリアルタイムで表示されます。
解約の確率のスコアの確認方法については、
こちら
をご参照ください。
Ziaによる解約予測の設定
Ziaによる解約予測を開始するには、顧客と決済に関するデータをもとにZiaが学習を行う必要があります。設定手順は、主に以下の4つに分かれます。
手順1:
顧客データの参照先(顧客データを表すタブ)を指定します。
手順2:
決済データの参照先(決済データを表すタブ)を指定します。
手順3:
決済が完了したとみなす条件を指定します。
手順4:
解約済みとみなす条件を指定します(商品が購入されなくなった/サービスの利用が中止されたとみなす条件)。
手順1:顧客データの参照先(顧客データを表すタブ)の指定
顧客データの参照先(顧客データを表すタブ)を指定します。Ziaが予測した解約の確率は、こちらで指定したタブ内に表示されます。
標準タブ
、または
カスタムタブ
を指定することが可能です。
条件の指定:
解約予測の対象のデータとして、タブ内のすべてのデータを指定したり、条件を満たす特定のデータのみを指定したりできます。
例:
-
売上の低下を防ぐため、解約の可能性があるすべての顧客のデータを確認したいとします。この場合、解約予測対象のデータとしてタブ内のすべてのデータを指定することで、すべての顧客における解約の確率の予測データを確認できます。解約される確率が高い顧客を優先してフォローアップをすることにより、売上を維持することが可能です。
-
特に優良顧客を対象として、解約の確率が高い顧客を特定したいとします。この場合、解約予測の対象とするデータの条件を指定することで、予測対象を優良顧客に絞り込んだうえで解約の確率を確認できます。
手順2:決済データの参照先(決済データを表すタブ)の指定
決済データの参照先(決済データを表すタブ)を指定します。指定したタブのデータをもとに、Ziaが顧客の決済パターンについて学習します。
標準タブ
、または
カスタムタブ
を指定することが可能です。ただし、連携機能用のタブを指定することはできません。
手順3:決済完了とみなす条件の指定
顧客データと決済データの参照先を指定した後、顧客が決済を完了したとみなすための条件を指定します。これにより、顧客の行動や任意の条件に応じて、決済が完了したかどうかをZiaが識別できるようになります。
たとえば、以下の画像のように、決済が完了した条件として商談の確度が80%以上と指定するとします。この指定した条件を基準値として、決済を完了した顧客がZiaによって識別されます。
-
決済日の指定
:決済データの参照先となるタブの項目の中から、決済日を表す日付の項目を指定します(例:[商談]タブの[完了予定日])。
-
料金体系の指定:
商品やサービスの内容に応じて、料金体系(定期課金/サブスクリプション型かどうか)を指定します。指定した料金体系をもとに、Ziaによって決済の頻度が算出されます。
-
上記の通信サービスの例のように、
料金体系が定期課金(サブスクリプション)型
の場合、決済は年/月単位で定期的に繰り返し行われます。この場合、
定期課金(サブスクリプション)情報を表す項目
(商品/サービスを表す項目)を指定することで、Ziaによって解約の確率が算出されます。
-
上記のネットショップ(オンライン通販)事業の例のように、
料金体系が定期課金(サブスクリプション)型ではない
場合、顧客の過去の購入/取引データと決済頻度をもとに、Ziaによって解約の確率が算出されます。
手順4:解約済みとみなす条件(商品が購入されなくなった/サービスの利用が中止されたとみなすための条件)の指定
最後に、顧客が商品/サービスの購入や利用を止めたとみなすための条件を指定します。
たとえば、以下の画像のように、商談の確度が50%以下と指定します。この指定した条件を基準値として、解約する可能性のある顧客がZiaによって識別されます。
解約予測を設定するには
-
[設定]
→
[Zia]
→
[予測]→[解約予測]
の順に移動します。
-
はじめて設定する場合は、
[利用を開始する]
をクリックします。
-
解約予測を新しく作成するには、
[新しい予測]
をクリックします。
-
解約予測の作成画面
で、以下の手順を実施します。
-
解約予測の
名前
を入力します。名前は重複しないようにする必要があります。
-
[顧客データの参照先]
を指定する欄で、顧客データが保存されている
タブ
を選択します。
-
[解約予測の対象]
の選択欄に移動します。タブ内のすべてのデータを対象に予測する場合は、
[すべて]
を選択します。
-
条件を満たす特定のデータのみを対象に予測する場合は、条件を指定します。
-
[決済データの参照先]
を指定する欄で、顧客の決済データが保存されているタブを選択します。
-
決済完了とみなす条件
の指定欄で、顧客が決済を完了したとみなすための条件を指定します。
-
決済日
を表す項目を選択します。
-
料金体系
の指定欄に移動します。
-
定期課金(サブスクリプション)型の商品やサービスのように決済が定期的に繰り返し行われる場合、
[はい]
を選択して
定期課金(サブスクリプション)情報を表す項目
(商品/サービスを表す項目)を指定します。
-
それ以外の場合は
[いいえ]
を選択します。
-
解約済みとみなす条件
の指定欄で、
顧客が商品/サービスの購入や利用を止めたとみなすための条件を指定します。
-
[保存する]
をクリックします。
予測の詳細ページの表示
予測設定の保存後、Ziaの学習が完了すると通知が送信されます。作成した予測の詳細ページには、設定内容の概要、追加情報、予測モデルの精度などの情報が表示されます。
設定内容の概要
解約の予測の設定内容が表示されます。設定されている条件や項目をひと目で確認できます。
追加情報
Ziaによって算出された予測データは、データの詳細ページにカスタム項目として表示されます。カスタム項目に関する情報は、こちらの
[追加情報]
の欄で確認することが可能です。
商品/サービス名はテキスト、解約の確率のスコアは数値で表示されます。
予測モデルの精度
作成した予測モデルの精度が表示されます。この精度は、Ziaの学習の度合いをもとに算出されます。予測モデルの精度が高いほど、予測データが正確であることを表します。
精度は1%から100%の範囲で表示されます。
-
精度が
80%
を超える場合、予測データが高確率で正確であることを表します。
-
精度が
60%から80%の間
の場合、予測データは概ね正確ですが、常に正確とは言えません。
-
精度が
60%
未満の場合、予測データに誤りがある可能性があります。
予測モデルの精度を高めるため、Ziaは2週間ごとにデータを学習しなおします。
解約状況のデータ
Ziaによる解約予測機能では、[解約状況のデータ]として、Google アナリティクスのような外部連携サービスのデータを追加できます。追加すると、解約予測において、Zoho CRMのデータだけでなく、外部連携サービスのデータも分析対象として使用できるようになります。Zoho CRMですでに解約予測機能を設定している場合、[解約状況のデータ]は解約予測の詳細ページから追加できます。
[解約状況のデータ]の設定が完了すると、Zoho CRMと外部連携サービスの両方のデータに基づく予測や分析が開始されます。なお、エラー発生時には、データを保護するため、データ連携が中止される場合がありますのでご注意ください。
解約状況のデータを追加するには
- 解約予測の詳細ページで[解約状況のデータ]の欄に移動し、[追加する]をクリックします。
- 外部連携サービスの一覧から、対象のサービスを選択し、[次へ]をクリックします(Google アナリティクス、Mixpanel)。
- Google アナリティクスを選択した場合、外部連携サービスの認証画面で、以下の設定を行います。
- 対象の外部連携サービスを選択します。
- プロパティIDを入力します。
プロパティIDを取得していない場合、[プロパティIDの取得方法]をクリックして、取得方法をご確認ください。
- Zoho CRMと外部連携サービスの間で、顧客IDの項目を関連付けます。
同様に、Mixpanelを選択した場合も、認証に必要な設定を行います。
- [認証する]をクリックします。
メモ
:
-
Ziaの学習を実施するにあたって、顧客データの参照先のタブには
200件
以上のデータが必要です。また、これらのデータのうち、決済が完了したとみなすための顧客データと、解約されたとみなすための顧客データがそれぞれ
75件
以上必要です。
-
Ziaがデータを分析し、予想データを算出するまでに最大で
24時間
ほどかかる場合があります。
-
予測モデルの精度が低い場合、さまざまな原因が考えられます。主な原因として、各タブのデータにおいて必要な値が入力されていない場合や、データが重複している場合などが挙げられます。データが重複している場合は、
入力規則の設定
や
重複禁止項目の設定
を確認して必要に応じて設定を行ってください。重複データの詳細な管理方法については、
こちら
をご参照ください。
-
解約予測の設定を保存した後、決済完了の条件と解約の条件は編集可能ですが、それ以外の設定内容を編集することはできません。
-
解約予測の対象での選択内容にかかわらず、すべてのデータに対して予測データを表示するためのカスタム項目が作成されます。
- [解約状況のデータ]の連携においては、外部連携サービス内で必要なデータが削除されるなどの問題が発生した場合、データを保護し、予測精度を維持する目的で、データ連携が中止されます。
- [解約状況のデータ]の欄から外部連携サービスとの連携を設定した場合、その設定を後から編集することはできませんのでご注意ください。連携対象のサービスを変更したい場合は、設定を新しく追加する必要があります。
データが不足している場合
Ziaを学習するためのデータが不足している場合、予測データの項目には
[データ待ち]
と表示されます。こちらでは、解約済みとみなす条件に該当する顧客の人数と、条件に該当しない顧客の人数を確認できます。先述のとおり、予測データを算出するにあたって、顧客データの参照先のタブには200件以上のデータが必要です。
また、
Ziaの通知画面
から解約予測設定の概要や予測状況を確認することも可能です。
予測データの表示
Ziaによる解約予測機能では、顧客の行動をもとに
有効な顧客
(契約中/購入継続中の顧客)と
解約した顧客
に顧客が分類されます。
-
Ziaによって顧客が解約する可能性があると識別された場合、該当の顧客の詳細ページには予測データに関する欄が表示されます。こちらには、適用されている予測名と、解約の確率のスコアが表示されます。
-
解約する可能性がないと識別された場合は、予測データは表示されません。
料金体系の欄で
定期課金(サブスクリプション)型
として指定した場合、予測データを表示するにあたって、利用中のプランで利用可能なカスタム項目を2件分必要とします。関連情報:
カスタム項目の作成
-
解約の確率のスコア:
こちらには、顧客が商品の購入やサービスの利用を止める度合い(確率)が表示されます。
-
予測項目
:こちらには、定期課金(サブスクリプション)情報を表す項目名(商品/サービス名)が表示されます。
料金体系の指定欄で
非定期課金(サブスクリプション)型
として指定した場合、詳細ページにはスコアのみが表示されます。
スコアの内容
解約の確率のスコアは、顧客が商品の購入やサービスの利用を止める度合い(確率)を表します。スコアが高いほど、顧客が商品の購入やサービスの利用を止める可能性が高いことを表します。
メモ:
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データの詳細ページに表示される予測データの項目数は、該当のデータが条件に一致する予測モデルの件数によって異なります。
-
予測データのカスタム項目に表示される内容は、データの詳細ページに表示される内容と同じです。予測データ用のカスタム項目は、レポート作成、自動化設定、詳細フィルターによるデータの並べ替えや抽出などで使用できます。
予測データの活用
Ziaによって算出された予測データは、さまざまな場面で活用することができます。主な活用例は、以下のとおりです。
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ワークフロールール
:解約の確率のスコアをワークフロールールの条件として指定し、タスクの作成、担当者への通知、タグの追加などの自動化処理を設定できます。
-
レポート
:解約の確率のスコアをもとに、商品の購入やサービスの利用を止める可能性のある顧客のレポートを作成できます。
-
データの表示画面
/
詳細フィルター
:解約の確率のスコアをもとに、顧客のデータを並べ替えたり抽出したりすることができます。